大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和32年(ワ)5657号 判決 1960年5月09日

原告 同栄信用金庫

右代表者 笠原慶蔵

右訴訟代理人弁護士 山崎保一

右訴訟復代理人弁護士 松浦勇

被告 里吉力雄

右訴訟代理人弁護士 根本昌己

主文

被告は原告に対し金百五十一万千九百九十四円及び内金五十万円に対する昭和三十二年六月十六日以降残金百一万千九百九十四円に対する昭和三十四年五月十九日以降各完済に至るまで金百円につき一日金六銭の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金五十万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

被告が昭和三十一年八月十一日訴外株式会社現代社の原告に対する手形金融取引上の債務につき連帯保証をしたことは当事者間に争がないが、右保証契約の趣旨について争があるのでまずこの点について判断する。

成立に争のない甲第一号証(約定書)及び証人枝見倭、同青木栄、同角谷要作の各証言並びに被告本人尋問の結果を綜合すれば、「訴外株式会社現代社は、その代表取締役静人こと枝見倭が原告に対して有する預金債権その他を担保引当てとして昭和三十一年八月十一日原告との間に手形貸付、手形割引等の方法により将来継続的に原告より融資を受ける旨の金融取引契約(甲第一号証の約定書のとおり)を締結し、その手始めとして原告よりまず金百万円の融資を受けたものであるが、右契約の締結に当り原告より連帯保証人を立てることを要求されたので、右訴外会社の代表取締役枝見倭は自ら連帯保証に立つとともに知人たる被告にその旨をはかり、預金担保等を差引けば結局において保証人の責任限度は金二十万円程度に止まる旨を告げて被告の承諾を得、用意せる約定書(甲第一号証)を示し、被告より閲覧の上連帯保証人としての署名捺印を受けた後これを原告に交付したこと、右約定書には取引の程度額及び契約期間の定めなく、又保証人の責任限度及び保証期間についても何等の記載がないこと。」を認めることができ証人枝見倭は「連帯保証人としての被告の責任限度は金二十万円に止まる由を原告金庫の係員に告げた」旨供述しているが、該供述は証人青木栄の証言と対比して措信し得ず、この点に関する被告本人の供述も右枝見倭よりの伝聞にかかるものとして同じく採証の資となし難い。他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上認定の事実よりすれば被告は訴外株式会社現代社と原告との間の無限度の継続的手形金融取引関係につき無条件に連帯保証をなしたものと認めるに妨げない。なんとなれば被告がたとい前記枝見倭との間において保証責任限度を金二十万円と約したとしても、被告において前記約定書に何等そのことを附記せずして連帯保証人としての署名捺印を遂げ、枝見倭を介してこれを原告に交付し、しかも枝見倭よりは原告に対してそのことに関する告知のなかつたこと前記認定の如くなる以上、被告の内心的効果意思は如何ともあれ、原告に伝達せられた被告の意思表示としては、その表白せられたところに従い、無条件の連帯保証としての効果を認めざるを得ないからである。

次に被告は右連帯保証契約は昭和三十二年五月十五日原、被告間において合意解除され被告の保証責任は免除された旨抗争するので以下この点について考えてみるに、証人枝見倭、同池城安一郎、同木原宏の各証言及び被告本人尋問の結果を綜合すれば「訴外株式会社現代社が前記取引関係に基き原告宛に別紙目録(1)の記載の約束手形(成立に争のない甲第二号証)を振出した当時、すなわち昭和三十二年五月十五日頃被告より右訴外会社の代表取締役枝見倭に対して営業不振による資力減退を理由に保証辞退の申出があり、右手形に保証をなすことを拒絶されたので、枝見倭は原告にその旨を告げたところ、原告の係員より代りの保証人を立てることを求められたが、これを立てなかつたため被告の保証辞退は遂に原告の容れるところとならず、従つてその後同年四月五日右訴外会社振出、原告宛金額百五十万円、満期同年六月五日の被告の保証する約束手形(成立に争のない乙第一号証)の支払延期のため、これを別紙目録(2)記載の約束手形(成立に争のない甲第三号証)に書換える際にも被告より保証辞退を理由に手形保証の拒絶があつたが、原告はこれを認めず、被告が右手形に保証をなすべきことを要求していた。」事実を認めることができ、被告本人尋問の結果中「被告の保証辞退については原告の了解を得ている。」旨の供述部分は枝見倭等より伝聞にかかるものとして信ぴよう力なく、他に右認定を動かすに足る証拠はないから被告の右保証契約合意解除に関する主張はこれを容認するに由ない。

もつとも期限の定めのない継続的取引契約より発生する将来の債務につき保証をなした者は、特に保証期間の定めがない限り、取引慣行並びに信義則に照し相当と認められる期間が経過した後は保証契約の解約申込をなし得るものと解するのを相当とするから被告が原告に対し前記連帯保証契約の解約申込をなすことはもとより妨げないが、証人青木栄の証言によれば、原告の金庫においては業務取扱上の慣例として大体一年を経過する毎に約定書の書換をなさしめていることが認められ、右事実に照せば前記保証契約の解約申込を許容すべき相当期間は一年と認めるのを妥当とするところ、被告の前記保証辞退の申出を保証契約の解約申入と解するとしても昭和三十一年八月十一日前記連帯保証契約成立の時より未だ一年を経過していないことが明かであるから解約申入としての効力を認めるに足りない。なお解約によつて保証契約が消滅した場合解約前に発生した債務については保証人においてその責任を免れ得ないことはもとよりいうまでもない。

ところで別紙目録記載(1)、(2)の約束手形二通の振出、呈示並びに支払拒絶に関する原告主張事実は被告の認めて争わないところであり、右約束手形二通はいずれも前記継続的取引契約に基き被告の連帯保証存続中に振出されたものであることが明かであり、右継続的取引契約には取引限度額の定めはないが、右約束手形金合計金二百万円の程度を以ては未だ保証人の責任を不当に拡大するものとは認められないから、被告は右手形の不渡につき連帯保証人としての責任を免れ得ない。

しかり而して前記継続的取引契約に関し契約当事者及び連帯保証人間において期限後の損害金を日歩六銭と特約したことは当事者間に争なく、原告が預金担保の操作、内入弁済等により前記(2)の手形金百五十万円の内金四十八万八千六円及び同手形に関する昭和三十四年五月十八日までの約定期限後損害金の決済を得たことは原告の自認するところである。

しからば原告が被告に対し連帯保証債務の履行として前記(1)の手形金五十万円、(2)の手形金残金百一万千九百九十四円以上合計金百五十一万千九百九十四円及び右(1)の手形金に対する同手形の支払呈示の日の翌日である昭和三十二年六月十六日以降(2)の手形金残金に対する昭和三十四年五月十九日以降各完済に至るまで金百円につき一日金六銭の割合による約定期限後損害金の支払を求める本訴請求は理由ありとしてこれを認容すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 古山宏)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例